シェア・ショベル:体験型インタラクション作品の開発と実装

Share-Shovel: Development and Implementation of an Interactive Experience Artwork
制作・実装・検証レポート
2024年11月-12月

Abstract

本報告は、CNC加工技術を用いて制作したショベルカー型インタラクティブ装置「シェア・ショベル」の開発経緯、技術仕様、およびイベント実装における検証結果を報告する。本作品は物理的な操作体験と参加者間のコミュニケーション要素を組み合わせた体験型アート作品として設計され、2024年11月から12月にかけて高知県内の2つのイベントで実装された。参加者約50名の体験を通じて、機械的要素と社会的要素の組み合わせが参加者の体験の質に与える影響について考察を行った。

作品概要

シェア・ショベル完成品
図1. シェア・ショベル完成システム(ショベルカー本体と回転台)

「シェア・ショベル」は、ショベルカーの機械的動作を模倣した体験型インタラクティブ装置である。参加者は2本のレバー操作により回転台上のガチャガチャカプセルを掬取し、カプセル内のコンテンツを通じて他の参加者との間接的なコミュニケーションを行う。全長約60cmのショベルカー本体と直径25cmの回転台から構成される。

1. 研究背景および目的

初期設計図
図2. 初期設計スケッチおよび構想図

ショベルカーの機械的動作メカニズムは、複数の関節が連動して複雑な軌道を描く興味深い工学的システムである。特に2本のアーム構造による2自由度の動作は、人間の腕と手の構造との類似性を有している。

本研究では、このショベルカーの機械的魅力を体験型アート作品として再構築し、さらに参加者間のコミュニケーション要素を付加することで、技術的体験と社会的体験を統合したインタラクティブシステムの構築を目的とした。

2. 設計および製作方法

2.1 設計プロセス

CADデータ
図3. Adobe Illustratorによる部品設計データ

設計は手描きスケッチから開始し、Adobe Illustratorを用いてCNC加工用の2Dベクターデータを作成した。実機のショベルカーの構造を参考に、2本のアームの長さ比および可動範囲を決定した。

2.2 製作工程

CNC加工
図4. CNC加工プロセス
組立作業
図5. 部品組立および調整作業
表1. 製作仕様
項目 仕様
材料 合板24mm厚
加工時間 約1時間(CNC加工)
製作期間 約1ヶ月
本体サイズ 全長約60cm
回転台直径 約25cm
設置高 約20cm

最も技術的困難を要したのは、ガチャガチャカプセル(直径約4cm)を確実に掬取可能なショベル部の設計であった。複数回の試作と調整を経て、適切な開口角度と深度を決定した。

3. システム構成

3.1 ショベルカー本体

完成したショベルカーユニット
図6. 完成したショベルカーユニット

2本のレバー操作により、2つの独立した円運動を組み合わせた複合的な軌道制御を実現している。実機ショベルカーと異なり、意図的に2自由度に制限することで、操作の習得に一定の技能を要求する設計とした。

動画1. ショベルカー単体動作デモンストレーション

4. インタラクション設計

4.1 体験フロー開発

参加者の体験風景
図9. 参加者による操作体験
イベント会場設営
図10. イベント会場での設営状況

当初は純粋な機械操作体験として設計したが、参加者の継続的関与を促すため、目的指向的な要素の導入が必要であることが判明した。この課題解決のため、「マイルール」共有システムを開発した。

回転台を含む全体システム
図8. 回転台を統合した完全システム

電気自転車用モーターとバッテリーを組み合わせた簡素な駆動システムを採用した。設計思想として意図的に「原始的」な構造を選択することで、保守性と信頼性を優先した。

動画2. 回転台統合システムデモンストレーション

4.2 マイルール共有システム

ルール展示
図11. マイルール展示システム
ルール記入例
図12. 参加者記入ルール例

参加者は以下のフローで体験に参加する:

1) ショベルカー操作によりカプセルを掬取

2) カプセル内の他者記入ルールを獲得

3) 自身のルールを記入し新たなカプセルに封入

4) システムに返却し循環を継続

この循環構造により、個人的な機械操作体験が社会的共有体験へと拡張される。

5. 実装および検証

5.1 実装概要

表2. 実装イベント概要
実装回 日程 会場 参加者数 実装内容
第1回 2024年11月 高知市ものメッセ 約30名 マイルール共有
第2回 2024年12月 佐川町黒岩地区文化祭 約20名 おみくじシステム

5.2 参加者行動観察

参加者の多くは初期段階で操作に対する心理的障壁を示した。「失敗への恐怖」が新規体験への参加阻害要因として観察された。しかし実際の操作開始後は、予想以上の操作困難性が逆に参加者の集中力と達成感を向上させる効果が確認された。

特筆すべき事例として、建設機械操作の職業経験者が本システムを体験した際、実機との操作感覚の違いを楽しむ様子が観察された。2自由度制限による操作制約が、熟練者にとって新鮮な挑戦となることが確認された。

5.3 質的データ収集

第1回実装において収集されたマイルールの一例:

「娘のために毎日必ず一本のキュウリを準備する」(参加者:父親)

この参加者は当初「自分にはルールなどない」と述べていたが、対話を通じて日常的に実践している家族への配慮行動がルールとして言語化された。このプロセスは、日常行動の再認識を促す効果を示唆している。

6. 第2回実装での適応

6.1 システム変更

第2回イベント
図13. 第2回実装会場
おみくじシステム
図14. おみくじシステムの実装

第2回実装では時間制約により、マイルール共有からおみくじシステムへと変更した。AI生成による非従来型おみくじを採用した。

生成おみくじ例:

願望:おまのゆめ、叶ういつも真夜中、誰も知らない夜、世界の果てまで、とんでsaikou!

恋愛:Yo、愛はミステリー、触れても触れらんねえ、影みたいなlady、近づくたびにfading

商売:チャンスは爆発、焦らずまず座って、金銀ザクザク、だけど本当はハートの熱さ

健康:健康?無敵!ただの言葉のラビリンス、進む道はレッドゾーン、だが走れバイブス全開

6.2 制作者責任に関する考察

意図的に「いい加減」に作成したおみくじに対し、参加者が真剣な態度で接する様子が観察された。この現象は、コンテンツの質と受容者の真摯性の関係について重要な示唆を提供した。

7. 考察

7.1 体験設計理論

本研究で得られた重要な知見は、イベント設計専門家からの以下のフィードバックである:「シェア・ショベルは、ショベルという機械的なものと、マイルールというおまじない的なものの掛け算になっているところが面白い」

この指摘により、効果的な体験型イベントには「陰と陽」すなわち対照的な要素の組み合わせが重要であることが理論化された。機械的・論理的要素と感情的・直感的要素の統合が、参加者の多層的な関与を促進すると考察される。

7.2 技術的要素と社会的要素の統合

ショベルカーの操作困難性は、当初は改善すべき問題として認識されていた。しかし実装を通じて、この困難性こそが参加者の集中力向上と達成感増大に寄与していることが判明した。さらに、操作後の社会的報酬(他者のルール獲得、自己ルール共有)が体験の完結性を高めていることが確認された。

8. 今後の展開

本研究で得られた「操作による間接制御」の体験設計手法は、他の体験型作品への応用可能性を有している。次期プロジェクトとしてUFOキャッチャー型システムの開発を計画しており、本研究で得られた知見の一般化を図る予定である。

9. 結論

「シェア・ショベル」プロジェクトを通じて、技術的要素と社会的要素を統合した体験型アート作品の設計手法について重要な知見を得た。特に、意図的な操作困難性の導入と社会的報酬システムの組み合わせが、参加者の深い関与を促進することが実証された。

本プロジェクトは、インタラクティブアート分野における学際的アプローチの有効性を示すケーススタディとして、今後の研究発展に寄与するものである。

本レポートは、体験型インタラクション作品「シェア・ショベル」の開発・実装プロセスの記録として作成された。すべての参加者データは匿名化されており、倫理的配慮のもとで収集・分析されている。